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Google Blogoscoped のインタビュー記事、A Chat with Aaron Swartz の日本語訳です。Google Blogoscoped は、Google 関連のニュース、紹介記事、批評記事などを連載している情報サイトです。Google についての記事でも話題を集めた Aaron ですが、彼の近況や最近の考えなどをうかがえるおもしろい記事であると思い、翻訳してみました。

2007年7月7日公開

すばらしいインタビューを提供してくれた Philipp Lenssen と Aaron Swartz、それから掲載の写真をクリエイティブ・コモンズ・ライセンスのもとで公開してくれた撮影者の方がたに感謝します。ありがとう。

Aaron Swartz インタビュー

写真: Aaron Swartz
Photo by Jacob Appelbaum.

インタビュー

Aaron Swartz、数年前にテクノロジーの寵児としてインターネットに名声を上げ、W3C の標準策定やクリエイティブ・コモンズといった領域で活躍してきた彼も、いまや二十代に差し掛かった。彼はまた、大きな成功を収めた Google Weblog のブロガーでもあった。そんな彼に、Reddit やアクティヴィズム、Google などについて、インスタントメッセンジャーを使ってインタビューをおこなった。(2007年5月7日)

まず最近の活動についてうかがっても? Reddit で常勤のプログラマを?

いや、Reddit は何か月か前にやめたんだ。

やめた理由は?

上司がやめろと言ったからだよ。

経緯を説明してもらえますか。

クリスマスに、友達何人かとヨーロッパに行ったんだ。旅行も終盤になって、僕は風邪を引いてしまい、帰ってからボストンの昔のアパートで一週間ほど寝込むことになった。サンフランシスコに戻ってきたのは週末で、月曜の朝に会社に出てみたらクビを宣告された。なにが起こったのかを理解しようとしばらく考えてたけど、なにもかもうまくいってたとしか言いようがなかった。それでも結局、僕はこれもひとつの機会だととらえることにして、クビを受け入れた。それで、もらい物ならとにかくありがたくもらうことにして、あらを探すのはやめたんだ。

Reddit のチームとはどれぐらいの間仕事をしてたんですか? そこでどんなことを?

Reddit のチームと一緒になったのは、そのアイデアを思いついたとき以来だから、Y Combinator の最初のサマー・ファウンダーズ・プログラムが始まる数か月前からだね。そうしてその年の11月にフルタイムで一緒に仕事をするようになって、その後すぐにサイトのコードを Lisp から Python に移植し始めたんだった。

設立者は三人いて、僕と Steve と Alexis だ。Steve と僕がプログラムを書いて、Alexis が営業やカスタマー・サービス、オフィスの管理やビジネスの展開といった、首をもたげてくる無数のタスクをこなしていた。Christopher Slowe がハーバードで物理の博士号を取得できてからは、彼もパートタイムで参加してくれた。

あの頃はエキサイティングだったね。だけどオフィスで仕事するようになると、なにもかもが変わってしまった。

それまではどんな環境で仕事をしてたんです?

Y Combinator 以前は、スタンフォードの学生だったんだ。そしてしばらく Reddit で働くようになって、マサチューセッツのサマービルにある小さな三部屋のアパートに四人ですし詰めになった(僕は戸棚のなかで睡眠を取った)。それから Reddit は Condé Nast (Wired、Elle、The New Yorker、Details、GQ なんかを出してる出版社)に買収されて、連中は僕らをサンフランシスコの Wired 誌のオフィスで働くようにして、それから僕をクビにした。よかったのは、連中のロゴでナイスなTシャツを作ってやれたことぐらいかな。

そうですか……。もし推測するとしたら、どうしてかれらはあなたを解雇したんでしょう? オフィスの環境に向いていないと判断したから?

まあそうだろうね。僕はオフィスで仕事するのはいやだったし、そのことを隠しもしなかったからね。出社時刻は守らなかったし、会議も備品も無許可で取り付けた。で、それを上司はあんまり感心してなかった。

それに、ボスは僕があんまり長い休みを取って姿をくらますのに動揺してたんじゃないかな。ヨーロッパ旅行中に向かったとこのひとつが Chaos Computer Conference なんだけど、そこで僕は友人の Quinn Norton が Wired の取材で来てるのに同行した。彼女が記事のために撮った僕の写真は、wired.com のトップページに掲載された。僕はふざけて言ったものさ、「ボスは僕がどこに行ってるのかを、自分の会社のウェブサイトのトップページで知ることになるんだぜ」って。

ベルリンでそんなことが。

そうなんだ。だけど極めつけのオチは Wired の編集をやってる Chris Anderson がブログに書いてたことだ。彼は自分の会社のサイトのトップページに僕が出てたのには気づかなかった。彼がそれに気づいたのは——僕のブログにそのことがポストしてあるのを見たときなんだ!

ローレンス・レッシグとクリエイティブ・コモンズ

ベルリンでは、ローレンス・レッシグには会われましたか? たしかあなたは、彼とは以前に会ったことがありましたよね。

レッシグとはもう何年も仕事をしてる。僕は彼のクリエイティブ・コモンズの仕事に携わった最初の人間のひとりだ。たしかにベルリンでは彼のもとを訪ねたよ。

写真: レッシグと Aaron
クリエイティブ・コモンズのローレンス・レッシグと。数年前。
Photo by Rich Gibson.

あなたが携わったのはクリエイティブ・コモンズの技術的な側面についてですよね? ウェブサイト用のメタフォーマットとか。

うん。たしか正式な肩書きは「メタデータ・アドバイザー」だったかな。ライセンスを記述するメタデータのフォーマットをデザインするのに関わったんだ。もちろん、当時は少人数でやってたから、ほかのことでもいろいろ手伝ったりはしたけれど。

そもそもクリエイティブ・コモンズに関わるようになったのはどうしてですか? レッシグ氏から声がかかった? カンファレンスに参加したのがきっかけ?

カンファレンスには参加してたから、かれらも僕のことは知ってはいたんじゃないかと思う。でもそもそもは僕がサンフランシスコの新聞でそれについてのある記事を読んだことだ。あとになって知ったんだけど、その記事は本当はグループの正式な立ち上げを待ってから掲載されることになっていたものだったのに、グループを立ち上げている時点ですぐに掲載されてしまったものだったそうだ。その記事に、レッシグが機械可読なライセンスを欲していると書いてあるのを見て、彼にメールしたんだ。メールして、「僕は W3C で RDF という機械可読な仕組みに携わってたことがある、あなたがこれを採用すべき理由は云々」って書いたんだ。すると彼から「おもしろい。君がやってみてくれてはどうだろう?」と返信が来た。

女性差別について

“技術系コミュニティの女性に話を聞いてみれば、彼女たちが浴びせられてきた胸の悪くなるような性差別的な言動についての話には事欠かないはずだよ。”

話をさかのぼって、最年少の W3C エバンジェリストだったことについてうかがいます。それについてどう考えてますか?

楽しんでるよ。W3C やそのほかのカンファレンスに来る人たちと、僕の年齢がもとで面倒になったことはないね。

ハッカーの精神からすれば、それがあたりまえのことなんですね。才能がありさえすれば、歳や見かけは関係ない!

それが事実だと思いたいところだけど、技術系コミュニティが女性や人種を違える人びとを冷遇するのを見るにつけ、僕としては心からそうだと請け負える気分にはなれなくなってきている。

女性差別や人種差別の例が?

技術系コミュニティの女性に話を聞いてみれば、彼女たちが浴びせられてきた胸の悪くなるような性差別的な言動についての話には事欠かないはずだよ。彼女たちがすっかりまいってしまうのも無理はない。結果的に、技術系で見かける女性たちというのはみんな、そういった虐待をも進んで耐え忍んできた人たちばかりになってしまっている。

それをつくづく感じたのが、技術系コミュニティの有名人だけが参加できる、ティム・オライリーの招待制の Foo Camp に出たときだ。管理職の連中がいて、周りは誰も聞いてないと思ったんだろうが、話してたのは大事なビジネス上の話し合いをしょっちゅうストリップクラブでやってるとか、ほかの国からきたプログラマの悪口だとかなんだ。

その一方で Foo Camp では差別待遇についてのセッションもやっていて、本当の問題は人種差別や性差別ではなくて、人間が自分に似たほかの人間と組みたがるという事実にすぎないのですとか言っている。

技術系コミュニティではこれについて否認する声が大きく、僕はもうあきらめて絶望しきってしまうこともある。それにこのことははっきりさせておくべきなんだけど、これは、なかには偏見を抱いた攻撃的な悪者もいるというような話じゃないんだ。僕が言っているのは、僕の親友も含めて、コミュニティのひじょうに多くの人たちのことなんだ。これは組織としての問題で、個人の問題なんかじゃない。

私はニュルンベルクで開かれた、前回の BarCamp に行きましたが、そこでの男女比はおよそ 80 対 2 でした。これはとても残念なことですが、いったいなにが原因なのでしょうか。ハッカー文化にも原因の一端があるのでしょうか。その反社会的な傾向が、社交的な人びとを遠ざけているとか。たとえば、私の知り合いの優れたプログラマたちも、交際上手とは言えません。

おそらくはそれも一部あるだろう。多くの人が、激昂したりしないよう気を配れるほど社交性が高いとは言えないから。だけど社交的で有能な人であっても礼を失するようなことはするし、そればかりか、そんな無作法が受けいれられるような文化を支持したりする。この批判は僕自身にだってあてはまる。

ということは、男性ばかりの業界ネットワークを作り上げていることにも問題があると?

なにもかも意図的にそうしているわけじゃないのかもしれないけど、結果的にそうなっていることはたしかだね。どの業界でも、上のほうに目を向ければ、びっくりするような女性差別に出くわすことになる。

それを示すいい例がある。米国の大手アグリビジネス企業である ADM の役員たちの会話を FBI が録音したものがあるんだけど、そこで連中はびっくりするほど侮蔑的なことを口にしている。業種が違うからといって、よそではこんなことはないなどとは、とても思えない。

「女性は一般的に言って男性よりも技術にのめりこむ度合いが少ない、だから技術系の業界ではあまり目にしないのだ」という人たちにはどう答えますか?

それが自分たちの差別を正当化するいちばんの方法だからだろう。いつだって被害者のほうに非があるというほうが簡単だから。だけど事実はこうだ、あるのは差別待遇の証拠であって、技術にハマれる資質の証拠じゃない。現に、心理学者の Carol Dweck らは、女子の数学等における成績が、差別的な態度を取らないようにした教師から教わるだけでも上昇しうることを発見するような実験をおこなっている。

ドイツでは、「ガールズデイ」というものがあって、女子学生に技術職のさわりを体験する機会を設けているそうです。米国には似たようなプログラムはあるんですか?

娘さんをつれて仕事に出よう、みたいな日を設けているところはあるかな。それから非営利団体で、科学の分野に女性をもっと呼び込もうとしているところもある。でもそのドイツの話みたいなのは聞いたことはないね。

業界での人種差別についても挙げられましたが、それについてうかがえますか。

人種差別に関してはデータはそれほどないんだけど、業界の有名人が差別的なコメントをしたのに出くわしたことはあるし、技術系のカンファレンスでは、もっといろんな人種がいてもおかしくないはずだという印象を拭えない。

現在の活動、Google Summer of Code について

ちょっと話をクリエイティブ・コモンズのほうに戻します。まだ開発には関わってるんですか? バージョン 3 で RDF 関係が削除されたのに驚いたものですから……。

まだ参加しているメーリングリストもあるから、少しは関わってると言えるかな。かれらは RDFa という、RDF をより直接的に HTML に埋め込めるフォーマットに移行したんだ。僕らは HTML 内に RDF を埋め込む方法を開拓したが、そこで協力してくれた技術チームの Ben Adida が、RDFa での作業で大きな役割を負っているんだ。だからかれらがそちらにスイッチしたのには納得できる。現に、クリエイティブ・コモンズの Ben は、RDF in XHTML Task Force では議長を務めているんだからね。

いま現在の W3C の構想で積極的に関わっているものはありますか? あるいは関連するものでも、たとえば HTML5 とか……。

いや、近頃は標準制定の世界とはすっかりご無沙汰しているね。

それじゃ近頃はなにをしてるんです? 解雇されてそのあとは……。

いろんなオープンソースのプロジェクトに協力したり、書き物をしたり、ルームメイトとお出かけしたりしているね。もうすぐ Google Summer of Code のプロジェクトふたつで指導教官をやることになってる。それから、僕が始めたプロジェクトである web.py 関連で、さらにふたつを監督する。

Google Summer of Code について、簡単に説明していただけますか。それから、そこでのあなたの役割についても。

Google Summer of Code プロジェクトは、いわゆる「オープンソース」やフリーソフトウェアの開発に対して資金を援助する Google 流のやり方だ。メジャーなフリーソフトウェアのプロジェクトを Google が審査するんだ。志願して受け入れられる場合もあれば、夏季のプログラミングの仕事を探している学生たちから募集するものもある。プロジェクトから優秀なものが選ばれて、Google が学生たちに夏の間そのプロジェクトに専念できるようにお金を援助するんだ。

各学生はプロジェクトでそれぞれを監督する指導教官を付けられることになっている。僕は web.py アプリケーションが受理されて、それを指導できるようにしてもらい、それで自分自身でふたつ、面倒を見られるようになったんだ。すごくエキサイティングなプロジェクトなんだよ。きっと楽しいものになるはずだ。

web.py とはどんなものですか?

web.py は Python 用のフリーのウェブアプリケーションライブラリだ。ウェブまわりのいろいろなことを取り仕切って、Python でのウェブアプリ開発を簡単にできるようにする。Reddit もこれを使ってできているんだ。

聞いた話ですが、Google のエンジニアたちは小規模なスクリプティング用途によく Python を使うそうですね。

うん。内部的に使われてるのでは Python が圧倒的だ。僕が思うに、ウェブアプリケーションも小規模なものは Python で書かれているんじゃないかな。

Google とはどういう関係でしょう? Googleplex(Google の社屋)で働いたことは? 招かれたり、申し出を受けたりはしたんですか?

Google で仕事をしたことはないけど、行ったことは何度もあるし、仕事のオファーもたくさんもらったよ。Google について批判的なことを書いたとき、それを「すっぱいぶどう」だと文句を付けてきた人がたくさんいた。Google に(就職面接で)蹴られたからだろうって。そういうわけじゃないんだよ。

これまで Google での仕事のオファーを断ってきたのはなぜですか。

スタンフォードにいたときに Google で働こうとは思わなかったのは、まず卒業することが最優先だと考えてたからだ。Reddit にいたときに Google で働こうとは思わなかったのは、起業していくことのほうがずっとエキサイティングだったから。それでいまは? どうだろう。IPO 以降、Google はかつてほどエキサイティングな場所ではなくなってしまった。Google で話した人たちで、とりわけ印象に残るような、胸を打つ仕事をしているように見えた人はいなかった。面白そうではあったけど、九時五時で長期間打ち込むだけの価値があるなにかだとは、思えなかったんだ。

チョムスキー、アクティヴィズム、ウィキペディア

ブログに、本を書くことも予定していると書かれているのを読みました。いま現在書かれているんですか? また内容はどんなものでしょう。

本のアイデアは、いくつか温めてるんだけど、どちらも出版の話をするには程遠い状態だね。 John Martin Fischer の道徳義務についての説に反論した長文もあるんだけど、もし出してもいいというとこがあれば、ね。:-)

わかりました。本の構想ですが、以前にブログで言及されていた着想に関係するものですか? つまりその、ノーム・チョムスキーの著作から導かれたという……。

それについての本も考えてはいるけど、それはすごく長期のプロジェクトなんだ。

チョムスキー氏に直接会ったことはありますか?

あるよ。ちょっとだけど、何度か。(マサチューセッツの)ケンブリッジで偶然遭遇して、ちょっとしゃべった。

チョムスキーと彼の著書 Understanding Power についてブログに書いたときには、かっとなったりはしませんでしたか? これまでにないほどのたくさんのコメントがつきましたよね。

たくさんのコメントやメール、それから直接会っての批評をいくつかもらったりしたけど、そんなにひどくなかったよ。自分からはとくに言い立てたりはしなかったけどね。

それでも私の記憶では、あなたはチョムスキーの説の反証ができたら賞金を出したっていいとまで言ってましたよね。あれは本気だったんですか? 結果はどうなったんです?

本気だよ。まだ賞金は払わずにすんでるし、いくつかの答案には反駁してやった。嘘や噂話で固めたようなのを送ってくる人もいて、まだ全部をつぶすには至ってないんだけどね。

自身を政治的なプログラマたらんとお考えですか? あるいはプログラミングをする活動家?

僕はもう自分をプログラマだとはあんまり思わなくなってるな。あるいは、勝ち取るプログラマ (recovering programmer)、かな。

ふたつの「関心事」を混ぜ合わせてみたことは? たとえば政治関連のウェブサイトのプログラムなど、自分の技能をアクティヴィズムと結びつけたりは?

おもしろいと思った政治関連の技術系プロジェクトもいくつかあるけど、真に重要な仕事はテクノロジーとは関係ないんじゃないかと思うんだ。

それではこんにちもっとも重要だと思われるのはなんであると?

僕らは、人びとに世界のありようを説明するような、もっとまともな仕事、おおよそ昔ながらの、調査と執筆からなるプロジェクトを手がけるべきなんじゃないかと思うんだ。近頃は、政府やらメディアやらがどう動いて、世のなかがこんなに、米国ではだよ、こんなに間違ったところまできてしまったということに尋常じゃない関心が寄せられている。だけどそれに答える大事な仕事を誰もやってない。

しかしブログもあれば、大手のテレビニュース、新聞、雑誌……これらは世界を理解する助けとなるためにあるのでは?

ブログに、テレビに、新聞、雑誌なんてのは、せいぜいその日のニュースを理解する助けになってるというだけで、世界のもっと大きなことについては気にもかけない。テレビ、新聞、雑誌は大部分が広告主導で成り立ってるから、広告主の機嫌を損ねるような話は没にする。ブログはそれよりはましだけど、大きくて斬新な概念を表現するのには厳しいフォーマットだし、読者が読みたがってるのもそういう(新しい)ものじゃない。

“編集の行き届いた中身のない百科事典よりは、まずい編集でも内容の充実してる百科事典のほうがずっといいと思うよ。”

ウィキペディアは、おっしゃっているより大きな事柄をよりよく理解する手立てになると思いますか? たとえば、「アラブとイスラエルの衝突」の記事など。

ウィキペディアがさまざまな領域における進歩だというのは間違いないけど、それでもその全ユーザーに染み込んでいる大手メディアの世界の先入観を反映しがちだ。ウィキペディアの政治系のページに、(それまでとは違う)別の背景について加筆してみたことが何度かあるけど、削除されるばかりだった。僕は別に勝手のわからない新人ユーザではなかったというのにだ。

ウィキペディアにはかなり記事を書いていたんですか?

うん。ひと頃はトップ 1000 に入ってた。いまはどうだかわからないけど。

編集した数のランキングでトップ 1000 だったということですか?

そう。

そういうのを計測するためのツールがあるんですか?

うん、一覧になってるんだ。

ウィキペディアで問題を感じたことはほかにありますか? あなたは Wikimedia 財団の委員会の候補者にもなりましたが、それは結局どうなりましたか?

あれにはずいぶん注目をしてもらったけれども、僕の立候補を応援してくれていた Erik Möller は落選してしまった。ウィキペディアについてはそれ以降それほど詳しくは追っかけなくなったね。

自分の立候補にあたっては、僕はウィキペディアのコンテンツの大部分を書いたのは実際には誰なのかについての調査をした。あの記事はもっとブラッシュアップしたいと思ってる。僕が書いたのは、Jimbo Wales を初めとするウィキペディアのリーダーたちの言っている、限られた、結束の固い 500人の精鋭がウィキペディアのコンテンツのひじょうに大部分を書いたのだという主張についてだ。Jimbo はこれが事実であることの証拠があると言う。彼はサイトで記事を寄稿した人について調べて、そのほとんどがひじょうに少人数によって寄稿されたということを発見したんだ。

僕はこれをうさんくさいと思って、かわりに寄稿された文字数を勘定してみた。(一回の編集というのがウィキペディアでページを保存した回数を数えるのに対して、文字数を数えるのは記事に加筆した分量を測ることになる。)それで僕は、ウィキペディアのコンテンツの大部分は、一度限りの匿名ユーザー、または一回か二回しか編集したことのないユーザーによって寄稿されたものであることを発見した。この件はウィキペディアの官僚制を取り仕切る 500 人の精鋭たちには気に入ってもらえなかった。僕の結果を信じようとしないで、それとなく、僕がなんかやって数字をでっちあげたんだろうとほのめかす人までいた。連中の世界観に、真っ向から対立するものだったからだ。

でもそのほうが納得がいきますね。とてもたくさんの特殊な関心の領域があるわけですから、500 人のウィキペディアンがみなそうした特殊な関心事についてのエキスパートだというのは信じがたい。たとえば私は自分の地元についてよく知っていますが、「地元」も世界中なら 500 じゃとても足りるものではありません。

そうなんだ。500 人が自分たちだけで百科事典を書き上げたというのは、どうしようもなく嘘くさく思える。それよりも何百万人もの人がそれぞれ、自分たちの知ってることについてちょっとだけ書いたというほうが理にかなっている。だけどそれで 500 人の精鋭たちが退けられて軽んじられるようになるわけじゃないと思う。それどころか、裏方として討論を重ねてはわずかな修正を繰り返し、そうしてふとあたりを見回してみれば、目に付くのはみんな同じ顔ぶればかりじゃないか、ということなんだろう。

しかしどちらのグループにもそれぞれ重要な役目がありますね。というのは、私はなにか特殊なことについてのエキスパートであるかもしれませんが、ウィキペディアの編集の文法については素人ですから、なにか技術的なことでミスをしてしまうかもしれません。

そりゃあね。だけど僕は、編集の行き届いた中身のない百科事典よりは、まずい編集でも内容の充実してる百科事典のほうがずっといいと思うよ。

Google のこと、検閲について

ちょっと Google のことに話を戻したいと思います。Google Weblog はあなたにとって初めてのブログでしたか?

いや。

それまではどんなブログを書いていたんですか? Google Weblog を始めることになったのはどうしてですか?

個人のブログを始めてからしばらくたってたし、すぐには思い出せないけど、たしかほかにもいくつかやってた。Google Weblog を始めたのは、友達から Google Catalogs のことを聞いたときだ。僕は自分が見逃していた Google の機能についてほかにも知りたいと思った。ところがそういうのがわかるようなとこはどうも見当たらない。そこで自分でブログを立ち上げて、みんなに新しい Google の機能を見つけたらメールで教えてくれるようお願いしたんだ。

何年のことですか?

2002 年だね、このポストを見たところでは。

知る限りでは、それが Google の話題のみに特化した最初のブログだった?

だと思うよ。始める前に、ほかでやってないか探したからね。

あのブログは瞬く間に有名になりましたよね。私は覚えているのですが、ある時期には Google で「weblog」と検索した結果のトップに出るほどでした。

うん。恐ろしいほど長い間そうだったね。

そのことでおもしろい副作用があってさ、ブログを始めたいと思ってみんなが「weblog」でググると、僕のページを目にすることになって(「Google Weblog」というのは、かれらには「インターネットのブログ」とほとんど同じ響きだったろう)、そこでさっそく僕のページに自分の記事を書いて登録ボタンを押しちゃうんだよ! そんなふうにしておもしろいメールを何通も受け取ったよ。

あなたのブログをブログシステムだと勘違いしたわけですか。わお。これまでにあえて Google Weblog にあまり注力しないよう意識したことはありますか? 最近は、めったに更新されませんが……。

意識してそうしたわけじゃくて、だんだんほかのことで忙しくなってきたし、投稿も減ってきたからというだけだよ。世界でもっともやる意義のある仕事というわけではないからね、自分のでもないサイトについてのメールをより分けて掲載してくなんてのは。

ずっとニュースの投稿記事でやってたんですか、当初から?

だいたいはね。ごく最初の頃には、自分で調査をしたりもしたけど。

“Google のハッカーたちは中華グレートファイアウォールを組んだシスコの連中よりもずっと切れ者だ。かれらの才能は冴えたテクノロジーを作り上げることにあるのであって、よその国の政府に「民衆には優しく」とか説教することにあるわけじゃない。”

その間に Google はずいぶんと大きくなりました。そのことには同意いただけますか?

それはもう。そしてあの IPO だ。

IPO は、あの会社の文化の根底に影響を与えたと思いますか?

間違いなくね。

どんなふうに?

あの会社はあまりに速く成長し階層化を遂げたせいで、創業時の魅力や刺激を失ってしまった。いまではほとんど普通の会社と同じになってしまい、かつてそう見えたような、特別で魅惑的なところではなくなってしまっている。

Google が中国への進出を発表して、それに伴うあらゆる検閲に歩み寄りを示したことに、驚きは感じましたか。

うん、ひどく失望したね。多くの人が言っているほどには驚かなかったけど、いい気分はしなかった。

かつての Google は「言論の自由に妥協なし」と言って、中国の人たちがどこでも好きなサイトに到達できるようになる、Tor みたいなソフトウェアに投資したりしていたんだよ。

いまやかれらは自主検閲つきの Google Maps 検索に、画像検索、書籍検索といったものも投入してますし、そのなかにはひじょうにひっそりとなされているものもあります(たとえば Google.cn の書籍検索に国外の出版社を入れないなど)。人びとはオンラインでの検閲行為に対してどう反応すればよいと思いますか?

僕は検閲行為はなんであれ遺憾なものだと思う。僕の意見を言えば、ビットはウイルスじゃない、僕らは人びとがお互いに伝えたいことを伝えられるコミュニケーション技術を作っていくべきだ。人びとがものさしを持ち出してきて、伝えていいことだめなことについて言い始めたら、僕らは抵抗しなくちゃいけない。政治的には抗議することを通じて、技術的には Tor のようなソフトウェアを通じて。(Tor はインターネットの利用を完全に匿名化することを可能にするプログラムで、トラフィックを何ダースものほかのマシンに経由させることでそれを実現する。)

しかしこんにちの技術系メーカーのほとんどはそれとは別の道を歩んでいるように思われます。妥協して、妥協したことを、長期的に見ればより大きな自由をもたらすことになると言い訳しています。こうした意見に対してはどう答えますか?

長期的に見ると、検閲がどういうふうにさらなる自由をもたらすっていうんだい? そんなのは「いまおとなしく殴られとけばこの先そんなに殴られずに済むんだぜ」って言っているようなものだ。人びとを傷つける行為はやめさせるべきに決まってる。

Google の公式の立場は、殴るけど優しくやるからねというものなのではないでしょうか。圧制者のグループに加入はしておいて、やがては「ねえ、そろそろ殴るのはやめにしませんかね」と進言できるだけの政治的影響力を蓄えるという。エンジニアたち、世界でも指折りの頭脳を持ったかれらが、こんにちの反検閲の技術に取り組みだすとどうなるのかは、見ものだと思いますよ。

たしかにね。Google のハッカーたちは中華グレートファイアウォール(訳注: 中国政府が構築を進める巨大検閲システム、金盾プロジェクトのこと、万里の長城すなわち The Great Wall of China になぞらえて The Great Firewall of China とも呼ばれる)を組んだシスコの連中よりもずっと切れ者だ。かれらの才能は冴えたテクノロジーを作り上げることにあるのであって、よその国の政府に「民衆には優しく」とか説教することにあるわけじゃない。中国の人たちに限ってはそっちにしてやったほうがいいだろうなんていうのもおかしな話だしね。

これまでにご自身が検閲の現場に出くわしたことはありますか?

高校にあったコンピュータはある時期検閲をやってたね。プログラムを書いて回避したっけ。

たしか僕のサイトをはじく検閲ソフトもあったと思う。詳しくは思い出せないけど。

コンピュータとともに育って

成長するなかでコンピュータの果たした役割の大きさはどれほどでしたか? たとえば学校ではいつもコンピュータが近くにありましたか。

生まれたときから、いつもコンピュータは近くにあったね。うちには初代 Mac があったけど、これは僕が生まれるちょっと前に出たやつだったし、父さんはオペレーティングシステムを作る会社を経営してた。自分にとりわけ技術的な才能があったとは思わないな。スタートラインが恵まれてただけで。

こんにち、ここ 10 年の、子供たちのことを想像してみてください。控えめに言ってもたくさんのコンピュータに囲まれた社会です。プログラミングを始めたのはいつですか? そのときの言語は?

プログラミングは、みんなと同じく、BASIC からで、始めたのはずいぶん小さいときだった。正確に何歳の頃だったかは思い出せないな。1998 年ごろから、Tcl で本格的なのを書き始めたんだ。

何歳になりますか、12?

うん、12 か 13 だ。

それはどんなものだったんですか?

最初の大きなプロジェクトは、theinfo.org っていうやつで、ありていに言えばウィキペディアなんだけど、ウィキペディアが立ち上がるよりもずっと前のことだ。それのために独自のソフトを書いたんだ。ウィキペディアには既存の Wiki ソフトがあったけどね。だけど僕は中学生で、ウィキペディアみたいにニューヨークタイムズに載ったりはしなかった。

現在は theinfo.org はどうなっているんですか?

それを動かしてたサーバは何年か前に止まっちゃってて、そのままになってるね。

そろそろ人生で次なる「ビッグな」プロジェクトを始めてもいい頃なんじゃないですか? なにかその手のことには取り掛かっていますか?

ノーコメント。:-)

生計を立てること、テキストリンク広告のこと

いまはなにで生計を立てているのですか?

Reddit の売却で、生活に困らないだけのお金はできたんだ。

ページランク 9 のあなたのホームページには、いくつかテキストリンクの広告がありますね。テキストリンク広告論争についてはご存知ですか?

どこでのこと?

aaronsw.com の下のほうにあるやつです。いくつかテキストリンクがありますよね、「Payday Loans (www.my-payday-loans.net)」とか。これは広告ですよね?

そうじゃなくて「テキストリンク広告論争」のほうだよ。

ええとその、テキストリンクのブローカーとそれに協力する者どもについて告発している人たちがいまして、連中がサーチエンジンをネタにして(ページランクを売って)いるというんです。サーチエンジンの製作者たちは「nofollow」属性を導入しましたが、Google の ウェブスパム対策チームのリーダーである Matt Cutts は、「nofollow」はテキストリンク広告——たとえばあなたのサイトにあるようなもの——にも使われるべきだと言っています。論争については初耳ということですか? ご自身のテキストリンクを売りに出したり、第三者のブローカーを通したりされてるのでしょうか?

その件についてはあまりコメントしたくないな。

そうですか。

書いておきたいと思う点もあるけど、まだできてないんだ。

論争についてのご自身の意見を書いておきたいということですか?

いまはそれ以上のことは言えないよ。

読書の習慣、大切なこと

わかりました……。実生活のことに話を移しましょう。オンラインの世界、「マイクロアテンション」の世界に飽き飽きして抜け出したいというときにはなにをしているんですか? 

そうだね、読書は、少なくとも週に一冊を読むようにしている。それから、読んでおきたい記事で長めのやつを、散歩とかバスで移動中のときとかに読めるように、携帯電話に入れておくようにしてるね。同じような目的で、長めのポッドキャストも入れてある。

あなたが興味を持つようなポッドキャストというのはいったいどんなものなんです?

僕の場合は、お気に入りの三大ポッドキャスト/ラジオといえば、Behind the News with Doug HenwoodCounterspin、それに This American Life だね。それにも飽きてきたときには、Onion News Network や Media Matters with Bob McChesney を見ることもあるかな。だけど聞いてる時間からすれば、これだけでもじゅうぶんすぎるくらいだね。

先週はどんな本を読みました?

先週は、Adam’s Fallacy を読み終えた。(John R. Searle の Intentionality も流し読みしたな。)あと Writing in America (Fischer and Silvers, eds.) をきょう読み終えられればと思ってるところ。それから Allegra Goodman の Intuition も。

いま読まれている本には、共通のテーマが?

最近読んだ 10 冊でいうと、6 つが哲学に関するものだけど、単に最近の気まぐれに従ってそうなってるだけだな。

本を読むのは、注意を注ぐ時間の長さでいうと、ブログや、Digg とか Reddit のようなソーシャルリンク系のサイトとは正反対だといえますね。無数の瑣末なニュースに溺れて、大きな視点を見失いがちです。あなたには最近「行きつけ」のサイトというのはありますか? ブログでも、ニュースサイトでも。

僕はあんまりそういうのは読まないようにしてるんだけど、どうにも直せない悪い癖もあってね。油断してるとつい反射的にタイプしてしまうサイトがある。最近だとたいてい daringfireball.net とか crookedtimber.org だ。ときには 3quarksdaily.comdelong.typepad.com だったりもする。あと bactra.org/weblog/ が更新されてるかに気を取られないように必死だね。みんなと同じく、僕も Cosma Shalizi 信者だから。

誰なんですか?

カーネギー・メロンの教授で、記事を公開している人のうちではほとんど最高の博識な研究者だよ。話題はマルクス主義哲学からスケールフリー・ネットワークの統計的分析まで、ユーモアに明晰さに知性を交えたすばらしいエッセイやブログを書くんだ。

長い間インタビューに付き合ってくれてありがとう。質問に出なかったことで、とくに言いたかったことはありますか?

とくに思いつかないね。

それでは、このウェブなるものは、いったいどこへ向かっているのかについて、聞いてもよろしいでしょうか?

うは。周恩来の言葉を思い出すな。フランス革命についての見解を聞かれてたしかこう言ったんだ、「それを言うのはまだ早すぎる」。

それでもまじめにいうと、ウェブは人がなしたとおりのものになるものだ。僕らは、強力で、広大に展開する、誰にも止めることのできないコミュニケーションのネットワークを手に入れた。次に向かうところを決めるのは僕ら次第なんだ。

Aaron Swartz インタビュー 聞き手: Philipp Lenssen

付録

その一、Aaron のブログでのコメント

Aaron が彼のブログに、インタビューを受けたことについて簡単に触れていたので、おまけとしてご紹介します。

Raw Thought: ロングインタビュー

先日 Google Blogoscoped の Philipp Lenssen から長いインタビューを受けた。それを編集したのがいま出てるんだけど、メッセンジャーでの普通のやり取りが段落の形になって出てくるのを見ると、なんだか仰々しくておもしろい。

インタビューでは面識のある人たちを困らせるようなこともずいぶんしゃべってしまった。言い訳させてもらうと、あれはインタビューで、あらかじめしゃべることを準備してたわけじゃないんだ。とはいえもし大きく間違ってたことがあったらここで訂正するよ。

追記: Intuition は読み終えた。これってボルティモア事件の小説版じゃんってことに、ずいぶんたってから気づいたよ。

追加更新: たすけて!時評のネタにされちゃった!

posted 2007-05-07T10:03:45

その二、参考記事

インタビューで言及されていた、Aaron による(「すっぱいぶどう」だと言われた)Google についての記事と、ウィキペディアについての記事は、日本語訳も公開されています。